自宅でできる運動不足解消|下の階に響かない静かな4つの運動
はじめに
「運動不足なのは分かっている。でも家では何もできない」
そう感じている方は多いと思います。ジムに通う時間はない。外を走るのは気が進まない。かといって家の中で動こうとすると、今度は別のことが気になります。
下の階に、音が響いていないだろうか?
マンションやアパートに住んでいると、この一点で足が止まります。ジャンプもできない。走るような動きもできない。
そうやって考えているうちに、結局その日も何もしないまま終わる。
パーソナルトレーナーとして、主に初心者・中高齢者の方を指導しています。自宅での運動について相談を受けるとき、最初に出てくる悩みは「何をすればいいか分からない」ではありません。
「音を出せないから、できることがない」です。
ですが、これは思い込みです。
音が出るかどうかには、はっきりした条件があります。
その条件さえ外せば、集合住宅でも下の階に響かない運動はいくつもあります。しかも、器具も広い場所もいりません。
この記事では次のことをお伝えします。
- 自宅の運動で音が出る理由
- 音を立てずにできる4つの運動
- 寝る前にできるストレッチ
- 自宅での運動について、研究で分かっていること
- 迷わないための3週間プラン
なお、運動量の目安については、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で、歩行と同じくらいの強度の活動を1日60分(およそ8,000歩)、筋力トレーニングを週2〜3日行うことが示されています。この目安の詳しい中身はデスクワークの運動不足解消の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
自宅で運動が始められないのは「やる気」ではなく「音」と「場所」
マンション・アパートでは、動く前に階下が気になる
自宅で運動を始めようとしたとき、多くの方が最初にぶつかるのは体力の問題ではありません。環境の問題です。
動画を再生すると、その場ジャンプが出てくる。もも上げが出てくる。バーピーが出てくる。そこで手が止まります。「これは無理だ」と思って動画を閉じる。翌日また別の動画を探す。この繰り返しで、実際に体を動かした時間はゼロのまま数週間が過ぎます。
これは意志の弱さではありません。選んだ運動が、その部屋に合っていないだけです。
器具も広さもないと、何をすればいいか分からなくなる
もうひとつの壁が「場所」です。
リビングにヨガマットを広げるスペースがない。器具を買っても置き場所がない。そう考えると、自宅でできる運動の選択肢はほとんど残らないように感じます。
ですが実際には、畳一枚分のスペースがあれば十分です。
この記事で紹介する運動は、すべて器具なし、その場から動かずにできるものだけを選んでいます。
音が出るかどうかは「着地」で決まる
この章が今回の記事でいちばんお伝えしたい部分です。
足が床から離れる動きが響く
自宅の運動で下の階に響く音は、ほとんどが床への衝撃音です。専門的には固体伝播音と呼ばれ、床の構造を伝わって下の階に届きます。この音が生まれる条件は一つだけで、足や体が床から離れ、そのあと落ちることです。
- ジャンプ … 両足が離れて落ちる → 響く
- その場ダッシュ、もも上げ … 片足ずつ離れて落ちる → 響く
- なわとび(エア含む) … 同上 → 響く
逆に言えば、床から離れなければ音は出ません。
「跳ぶ・落とす・引きずる」の3つを外せばいい
覚えていただきたいのは、次の3つを避けることだけです。
- 跳ぶ … 両足または片足が床から離れる動き
- 落とす … 手やお尻、膝を勢いよく床につける動き
- 引きずる … 足やマットを床にこする動き(摩擦音も意外と伝わります)
この3つを外すと、残るのは「ゆっくり、床に触れたまま動く」種類の運動です。そしてこの動き方は、体を作り直すうえでむしろ理にかなっています。速く動く運動より、ゆっくり動く運動のほうが筋肉に負荷をかけている時間が長くなるためです。
マットを敷くと変わること、変わらないこと
ここで「マットを敷けば大丈夫?」という疑問がわいてきます。
答えは半分正解だと言えるでしょう。
変わること: 手やお尻が床に触れるときの音、こすれる音。これらは軽減されます。膝をつく動作も、マットがあるとかなり静かになります。
変わらないこと: ジャンプの着地のような、体重が一気に床にかかる衝撃。マットの厚みでは吸収しきれず、床の構造を伝わって下の階に届きます。
つまりマットは「補助」であって、「これがあれば何をしてもいい」というものではありません。まず種目を選び、そのうえでマットを足す。この順番がベストだと言えるでしょう。
集合住宅でも音を立てずにできる4つの運動
ここから具体的な種目です。すべて室内でできて、器具はいりません。その場から動かず、床から足を離さないので、下の階に響きません。
やり方も簡単です。覚えることはほとんどなく、今日から始められます。
回数はあくまで目安です。きつければ減らして構いません。動作の途中で痛みが出たら、その種目は中止してください。
1. スロースクワット
狙う場所: もも、お尻(体の中でいちばん大きい筋肉)
- 足を肩幅に開いて立ちます
- 4秒かけて、椅子に座るように、股関節からお尻を後ろに引きながら下ろします
- 4秒かけて、ゆっくり立ち上がります
回数: 8〜10回 × 2〜3セット

2. 床や壁を使った腕立て伏せ
狙う場所: 胸、二の腕(腕の裏側)、肩まわり
- 壁から一歩ぶん離れて立ち、両手を肩の高さで壁につきます
- 手の幅は肩幅より少し広めにします
- 3秒かけて、肘を曲げながら胸を壁に近づけます
- 可能な限り素早く、押し戻します
回数: 10回 × 2〜3セット

強度の調整
- レベル1: 壁を使った腕立て伏せ
- レベル2: ソファの背もたれやひじ掛け部分を使った腕立て伏せ
- レベル3: 床での腕立て伏せ
- レベル4: 椅子などを使い足の位置を高く設定した腕立て伏せ

3. 膝をついたプランク
狙う場所: お腹まわり全体
- うつ伏せから、肘と膝を床につけて体を支えます
- 肘は肩の真下に置きます
- 頭から膝までを一直線に保ちます
回数: 20〜30秒キープ × 2〜3セット

4. 寝たままの脚上げ
狙う場所: 下っ腹(下腹部)、脚の付け根
- 仰向けに寝て、両手を体の横に置きます
- 両脚をそろえて、4秒かけて床から45度くらいまで上げます
- 4秒かけて、床につく手前まで下ろします
回数: 8〜10回 × 2〜3セット

寝る前にできるストレッチ
運動不足の解消をストレッチから始めたい方も多いと思います。ストレッチは床に寝たままできる種目もあり、寝る前の習慣にしやすいという利点もあります。
共通の注意点: 反動をつけずに呼吸を意識して行います。「気持ちいい」と感じるところで止め、痛みが出るところまで伸ばさないでください。目安はそれぞれ20〜30秒です。
仰向けで膝を抱えて腰をゆるめる
- 仰向けに寝ます
- 片方の膝を両手で抱え、ゆっくり胸に引き寄せます
- 20〜30秒キープし、反対側も同じように行います

デスクワークや立ち仕事で固まりやすい、腰まわりとお尻の筋肉が伸びます。
座ったまま太ももの裏を伸ばす
- 床に座り、片脚を前に伸ばします
- もう片方の膝は曲げ、足の裏を内ももにつけます
- 背すじを伸ばしたまま、股関節から体を前に倒します
- 20〜30秒キープし、反対側も行います

太ももの裏側が固いと、腰への負担が増えます。背中を丸めて手を伸ばそうとすると効かないので、背すじは伸ばしたまま倒してください。
うつ伏せで太ももの前側を伸ばす
- 床にうつ伏せで寝ます
- 片方の脚の足首をつかみ、かかとをお尻に近づけます
- 太ももの前側が伸びるところで20〜30秒キープします
- 反対側も行います
もう少し伸びを感じたい方は、曲げている方の脚の膝を少し浮かせてみてください。さらに伸びるはずです。
座っている時間が長いと、太ももの前側とつけ根が縮んだままになります。ここをゆるめると、立ったときの姿勢改善効果が期待できます。
自宅の運動でもカラダを変えることができる(研究が示していること)
「自宅でこの程度の運動をして、本当に意味があるのか?」という疑問はもっともです。ここでは、公表されている研究で分かっていることを紹介します。
器具を使わない在宅プログラムでも体力が改善したという報告
自宅で行う運動プログラムについては、複数の研究をまとめて分析したレビューがあります(Chaabene ら、2021年、Ageing Research Reviews)。この分析では、自宅で行う運動プログラムによって、筋力やバランス能力といった体力の指標が改善したと報告されています。
自宅での運動は、頭の働きの維持とも関わる可能性
もうひとつ、自宅やデジタル機器を使った運動プログラムと、加齢にともなう頭の働きの変化との関係を整理したレビューがあります(Herold ら、2024年、Journal of Sport and Health Science)。ここでは、在宅での運動が認知機能の維持を支える可能性が検討されています。ただし、研究の方法や条件がまだ揃っておらず、結論が確定した段階ではないとされています。
ただし対象は高齢者。40代・50代にそのまま当てはめない
上に挙げた研究は、主に高齢者を対象としたものです。また、参加者の多くは欧米の方です。したがって、40代・50代の日本人にそのまま当てはまるとは言えません。
それでも参考になるのは、「自宅で、器具を使わずに行う運動にも、体に対する変化が確認されている」という点です。ジムに行かなければ意味がない、ということはありません。
迷わないための3週間プラン
全部やろうとすると続きにくくなります。順番を決めましょう。
1週目:立つ回数を増やす
最初の1週間は、まとまった運動の時間をとらなくて構いません。座っている時間を分断することだけを意識してください。
- 30分から1時間に一度、立ち上がる
- 可能であれば、立ったついでにその場で2〜3回だけスクワットをする
厚生労働省のガイド2023でも、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意することが示されています。
2週目:寝る前のストレッチを足す
2週目は、上で紹介したストレッチを3つ、寝る前に足します。5分だけでもいいので、やってみましょう。
このタイミングを勧める理由は2つあります。
1つは、寝る前が予定の入りにくい時間だからです。朝や日中に予定を置くと、仕事や家族の用事で簡単に飛びます。
もう1つは、お風呂のあとは体が温まっていて、筋肉が伸びやすくなっているからです。同じストレッチでも、無理なく伸ばせる範囲が広がります。
3週目以降:音の出ないトレーニングを週2回
3週目から、種目4つのトレーニングを入れます。最初は週2回で十分です。
- 1回あたり15分程度
- 4種目すべてでなくてよい。2〜3種目から始める
- 曜日を先に決める(「時間があるとき」にすると入りません)
厚生労働省のガイドでも、筋力トレーニングは週2〜3日が目安とされています。
また、筆者のおすすめのタイミングは朝一択です。仕事前に行うと、その日1日をエネルギッシュに過ごすことができるでしょう。
自宅で運動するときに気をつけること
音を気にして動きを小さくしすぎると、効果が落ちる
これは自宅ならではの落とし穴です。
音を気にするあまり、スクワットで数センチしか下りない、腕立てで肘をほとんど曲げない、という方がいます。この状態では、筋肉にかかる負荷がほとんどありません。
ここまで紹介した種目は、きちんとした可動域で行っても音が出ないものを選んでいます。動きを小さくする必要はありません。小さくすべきなのは動きの範囲ではなく、速さです。
膝に痛みがあるときの考え方
膝に不安がある方は、スクワットで痛みが出ることがあります。
膝の痛みを抱えた方に対する自宅での運動については、研究のまとめもあります(Si ら、2023年、Journal of Orthopaedic Surgery and Research)。自宅で行う運動が、痛みや身体機能に対して有用である可能性が報告されています。ただし、これは変形性膝関節症と診断された方を対象とした研究であり、痛みの原因は人によって異なります。
実際の対応としては、次のようにしてください。
- 痛みが出る角度まで下ろさない(浅い範囲で止める)
- 壁に背中をつけたまま行う
- 痛みが続く場合は、その種目をやめて医療機関に相談する
痛みを我慢して続けることに意味はありません。
集合住宅で続けている人が、実際にやっていること
指導の現場で、自宅の運動が続いている方に共通していることがあります。
「時間帯」を先に決めている
続いている方は、「やる気が出たら」ではなく、先に時間帯を決めています。
ここでポイントとなるのは、前回の記事でお伝えした「可能な限りハードルを下げること」この一点に限ります。
人間は「やる気があるから行動するのではなく、行動するからやる気が出てくる」のです。
- マットの上に座るだけ
- ストレッチを1分だけ
- 腕立て伏せを3回だけ
- スクワットを1回だけ
これで十分です。
むしろ筆者が言いたいのは「絶対にハードルを上げないでください」ということです。
先ほど4つの例をあげましたが、難しそうに感じたでしょうか?「誰でもできそう」と感じた方のほうが多いと思います。
それが「可能な限りハードルを下げること」に繋がります。
なぜハードルを下げる必要があるのか?という話を簡単にご説明いたします。
運動を習慣化するのに必要な期間は、個人差はありますが、おおむね2〜3か月程度必要だと言われています。
ここは非常に大切なことなので、ぜひ覚えていただけると幸いです。
2、3か月経過する前に負荷(ハードル)を上げると継続が困難になりやすく習慣化しづらいと言えます。
2、3か月は絶対に負荷を上げないように、小さいステップを一段一段上がるイメージでいきましょう。
はじめはどうしても楽すぎるので、飛び級でハードルを上げたくなる気持ちは理解できますが、それはトラップ(罠)だと筆者自身の経験から、読者の方にお伝えしたい部分です。必ず1歩1歩確実にいきましょう。
仮に週2日の運動が辛くなったりしたら、1つ前のレベル(例としてマットを敷くだけでOKなど)に落とします。狙いは「小さい成功体験を積み重ねて、自己肯定感を自身に与え続けること」です。
自宅の運動不足解消に関するよくある質問
マンションでも音を立てずにできる運動はありますか?
もちろん、ございます。足が床から離れない運動を選べば、下の階に響く音はほとんど出ません。この記事で紹介したスロースクワット、床や壁を使った腕立て伏せ、膝をついたプランク、寝たままの脚上げは、いずれも床から足を離さずに行えます。ジャンプ、その場ダッシュ、なわとびは控えて頂くのが良いでしょう。
運動不足を解消したいのですが、何から始めればいいですか?
座っている時間を分断することから始めましょう。1週目は30分から1時間に一度立ち上がるだけで構いません。2週目に寝る前のストレッチを足し、3週目から軽いトレーニング(スクワット5回だけなど)を週2日ほど入れます。決して無理はせず、徐々に負荷を上げていくのがポイントとなります。
器具を買わないとできませんか?
必須ではありません。この記事の運動はすべて器具なしで、室内で行えます。畳一枚分のスペースがあれば十分です。マットは、膝や手をつくときの音を減らす目的で使うなら役に立ちますが、無くても始められます。器具を検討するのは、運動が習慣になってからで遅くありません。
まとめ
この記事でいちばんお伝えしたかったのは、「ハードルを一気に上げない」ということです。
自宅の運動でつまずく理由は、体力でも意志の強さでもありません。楽すぎる時期に、自分でハードルを上げてしまうことです。物足りないくらいの負荷を、2〜3か月そのまま続けられた方が、結果として先に進んでいます。
狙いは「小さな成功体験を積み重ねて、自己肯定感を自分に与え続けること」です。回数や重さより、途切れないことのほうが価値があります。
そのほかの要点
- 下の階に響くのは、足や体が床から離れて落ちるときです。「跳ぶ・落とす・引きずる」の3つを外せば、集合住宅でも運動できます
- 器具も広い場所もいりません。畳一枚分のスペースがあれば始められます
- 音が気になっても、動きを小さくしないようにしましょう。小さくするのは動きの範囲ではなく、速さです
- 進め方は、1週目に立つ回数を増やす → 2週目に寝る前のストレッチ → 3週目から軽いトレーニングを週2日ほど
- 膝に痛みがあるときは、痛みの出ない範囲で止めましょう。続くようなら医療機関にご相談ください
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- Chaabene H, et al. Home-based exercise programmes improve physical fitness of healthy older adults: A PRISMA-compliant systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2021. DOI: 10.1016/j.arr.2021.101265
- Herold F, et al. Alexa, let’s train now! — digital and home-based physical training interventions aiming to support healthy cognitive aging. J Sport Health Sci. 2024. DOI: 10.1016/j.jshs.2023.01.004
- Si J, et al. Effectiveness of home-based exercise interventions on pain, physical function and quality of life in individuals with knee osteoarthritis. J Orthop Surg Res. 2023. DOI: 10.1186/s13018-023-04004-z
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執筆者: GAMO代表 Daisuke Gamo(NESTA SFT シニアフィットネストレーナー/JCCA ベーシックセブン)
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